王者のプライド

2000年。
前年、日本一に輝いた福岡ダイエーホークス(当時)は優勝を目前にして足踏みし、一時は西武に首位を奪われるなど大苦戦を強いられました。
西武ライオンズ。ホークスの天敵。1999年、優勝したとはいえ勝ち越せなかった相手です。

現実世界では連敗で迎えた千葉マリンスタジアムでのロッテ戦が中止になり、苦手のジョニー黒木との対戦が流れるという幸運からホークスは息を吹き返して優勝を決めるわけですが、そんな中、ビッグコミックオリジナルで連載中の「あぶさん」(2000年の第18号)には、こんなシーンがあります。
西武戦になると途端に勝てなくなるチームを嘆く王監督、尾花ピッチングコーチ、若菜バッテリーコーチら首脳陣。
彼らが試合前の西武ドーム(現・インボイス西武ドーム)のグラウンドに出てみると、景浦安武選手が円陣を組んで選手に檄を飛ばしていました。

…みんなは一生懸命やっていると言うだろう。しかしそれでも、おれはあえて言う。
お前達には、去年の日本一としてのプライドがないのか。
おれにはそれが見えない。
一年だけの日本一じゃ、まぐれと言われても仕方がない。
連覇してこそ真の王者だ。今年も日本シリーズに出るぞ。そのためにも今日は絶対に勝って、首位で福岡に帰る!

漫画では、景浦(=あぶさん)が肩を脱臼しそうなほどの本塁突入でもぎ取った決勝点を守りきり、ホークスがV2に向かって再発進することになっています。


細かいディテールは異なっているとはいえ、今年のホークスにも同じように、あぶさんに檄を飛ばして欲しい。

お前達には、3年連続シーズン1位としてのプライドがないのか。

城島というポジティブキャラが去って以来、ホークスはみんな松中のカラーに魅せられ、真面目になりすぎています。
ヒットと言えば反対方向に打つものだ。綺麗にはじき返そう。配球を読んで知的にクリーンヒットを打ちたい。初球から淡白に打ち上げちゃいけない。
投手も、先発完投が至上主義であり、かっこよくストライクゾーンで勝負する。2ストライク追い込んだら一球遊ぶものだ。

だれがそんなきれいごとの野球を好みますか。

大村、川崎は泥まみれになってファーストに飛び込めばいい。
ズレータは自らのバッティング特性をいい加減知って、バックスクリーンに放り込むイメージを持つ。
下位打線はどうせ打率が著しく低いのだから、何にでもだぼはぜのように食いつくのではなく(バットを短く持ちながら外角ボール球に手を出し、内角には詰まらされる的場の姿勢は論外)、得点圏打率が高い大村に繋げる打席にしなくてはならない。そのためには自分がアウトになっても、投手に球数を投げさせ疲弊させればいい。

以前からホークスは残塁の山を築くのがお家芸でした。
しかしそれには意味がありました。
決定力が不足している場合。もしくは敵ピッチャーが好投している場合。
ランナーを出してもなかなか返せないため、残塁は必然的に増えていく。
それでも各打者が投手にプレッシャーをかけ続けてるため(残塁が多いということはそれだけランナーを出しているということと同義)、投手の疲労や緊張がある一線を越えた回に、いきなりビッグイニングを作って、豊富な中継ぎ・抑え陣で逃げ切る。
これがホークスの野球だったんです。

今年はそれが出来ていない。各打者が綺麗な野球をすることに拘るため、敵投手が疲労しないですいすい投げてしまっているからです。

横綱野球でいい。しかしそれは、今のように昨年の半分もホームランが打てない貧弱な攻撃力しか持たない場合、「受けて立つ野球」を意味するのではありません。
いい格好を捨て、何が何でも勝ちに行く野球。
喰らうつく野球。
泥臭い野球。

それこそが、勝利に向かって一丸となる姿が、3年連続シーズン1位の、「王者の」プライドであると思います。

だからこそ松中よ。王監督の言葉を思い出せ。
初球ストレートを、一撃でしとめろ!
*1

5番に城島がいなくなって以来、全球団の投手が「松中は歩かせてもいい」という配球をしてきています。それが驚異的な数字の四球数に表れています。
とはいえ、相手もプロ。なんでもない場面で初球からキャッチャーが立つ、または明らかなボール球を連続することは、プロのプライドが許さないはず。
必ず、早いカウントではストライクを取りに来る球が来ています。

しかし今年の松中はそれをほとんど見逃している。配球を読んでキメに来るストライクを狙おうとしているのでしょうが、もともと歩かせてもいいと思って投げているんだから打てるストライクが1打席で2球も3球も来るはずがない。
だから四球になる。それでチャンスが出来たと満足しているようでは三冠王の名が廃るというもの。現実にその後でズレータが決めきれない試合が何度あったか。

松中が何点得点しているか。

それを考えるなら、例え早打ちと揶揄されようとも、初球ストレートを確実にライトスタンドにぶち込む方がチームの勝利にとっては早道なのです。

ソロホームランは一点しか取れない。
だから繋いでランナーを貯めて大量得点を、

それは理想です。確かにその通りです。
しかし実際、それで大量得点を取れる打線じゃないのです。今年のホークスは。
それに、4番松中が、「うまい」バッティングをするのではなく、「破壊力満点の」バッティング(例えば、外角よりに逃げた変化球を、思い切り踏み込んで巻きこみ、ライトスタンド上段に叩き込むなど)をすることによって、敵チームの戦意を萎えさせ、ホークスの意気を上げることが出来るのです。1点が1点以上の重みを持つはずなんです。

だから松中が追い込まれてからレフト前にうまく流し打って、外野手がもたつく感に好走塁で2塁まで達しても、何も嬉しくない。敵にとっては何も怖くないんです。ズレータを内角高めストレートと外角低めスライダーで打ち取れば0点に終わるのだから。

だから、松中よ。
病身を押して福岡に帰ってきた王監督の目の前で、明日は必ずホームランをぶち込め。
ホームランはいらない、チームが勝つために、なんてお嬢様な発言は撤回しろ。
投手陣を含め、死ぬ気で勝ちに行け。

数ヶ月先のことを考えず、短期決戦の戦い方をすれば、ホークスはこれだけ強いんだということを、プレーオフで戦う両チームに見せつけ、そして王監督を安堵させてやってくれ。



明日の楽天戦は王者としてのプライドを示す戦いである。
決して消化試合を思う無かれ!

頑張れホークス!

*1:帰ってきたウルトラマン風に言えば「この一発で地獄へ行け」ってところねw